「夢を売る人」から「不安を管理する人」へ —— 4人のリーダーが教える、ペルソナ設計の本質
最大多数の最大幸福という「幽霊」
マーケティングにおいて、最も陥りやすい罠は何か。それは「どこかで見た理想像」を語ってしまうことだ。
「みんなにとって良い未来」「誰も傷つけない理想」——これらは聞こえはいいが、実際には誰の心にも深く刺さらない。最大多数の最大幸福という名の「幽霊」を追いかけるほど、メッセージは輪郭を失っていく。
これに対して、世界の主要リーダーたちが採用している手法は、まったく逆だ。「実在する一人」に照準を絞る。そして重要なのは、その「一人」が「自分自身」ではない、という点である。
リーダー自身が「自分が信じたい物語」を語るのではなく、「この状況に置かれた、この悩みを持つ、生身の人間」を頭の中に置く。今回は、トランプ、プーチン、習近平、高市早苗という4人の指導者を通じて、この設計思想を見ていく。
4つの「現在のペルソナ」
トランプが現在想定しているのは、「ペンシルベニア州の元製鉄所勤務、52歳のトラック運転手」だ。かつて中流階級としての誇りを持っていたが、インフレとガソリン代の高騰、安価な移民の流入によって生活が圧迫されている白人既婚男性。彼のインサイトは明快だ。「政府の小難しいお説教はもう十分だ。俺たちの日常を守り、敵を力でねじ伏せてくれるタフなボスが欲しい」。
プーチンが想定するのは、「モスクワ郊外の国営軍需工場に勤める48歳男性」。戦時経済によって工場がフル稼働し、皮肉にも人生で今が一番給料が良い。彼のインサイトは、「西側は俺たちを潰そうとしているが、生活は破綻していない。経済主権を示してやればいい」というものだ。
習近平が想定するのは、「深圳のEV・バッテリーメーカーに勤める29歳エンジニア」。国内の熾烈な価格競争に疲弊しつつも、国家が推し進める「新質生産力」の現場を担うエリート青年。「安売り競争で苦しいが、政府がサプライチェーンの覇権を握れば、世界をリードできるはずだ」と考えている。
高市早苗が想定するのは、「地方都市で製造業を営む、保守層の54歳経営者」。コストプッシュ型のインフレと増税路線に悲鳴を上げながら、日本の技術や防衛力の低下に強い危機感を持つ。「財務省の言う通りの増税や、弱腰な外交はもうたくさんだ。痛みに直結する積極財政で日本を強くしてくれ」というのが彼の声だ。
4人とも、ターゲットはまったく異なる。だが共通しているのは、「対立軸を明確にした、特定の熱狂層」に照準を絞っている、という構造そのものだ。
1年後、4人とも同じ方向へシフトする
ここからが、今回最も興味深いポイントだ。
1年後(2027年)、4人それぞれの予測ペルソナは、現在とはまったく異なる人物像になる。トランプは「シリコンバレーやテキサスのテック系スタートアップ創業者、34歳」へ。プーチンは「前線から帰還した兵士の妻、38歳女性」へ。習近平は「親の介護を抱えた、地方都市の42歳既婚女性」へ。高市早苗は「就職氷河期世代、地方で暮らす契約社員の単身女性」へ。
表面上は、まったく違う人物像に見える。しかし、その奥にあるインサイトの構造には、明確な共通点がある。
トランプの新ペルソナが求めるのは、「規制緩和によってAIや量子、暗号資産で中国を圧倒できるスピード感」。
プーチンの新ペルソナが求めるのは、「これ以上の社会不安や家族の犠牲は耐えられない。早く確実な勝利による安定を」。
習近平の新ペルソナが求めるのは、「最先端のAIやEV工場が世界一になっても、私の家計や親の年金には直結しない。生活保障に財政を使ってほしい」。
高市の新ペルソナが求めるのは、「積極財政の果実が、本当に末端の私にまで届く実感が欲しい」。
4人とも、「イデオロギーやアイデンティティ」を軸にした熱狂層から、「日々の生存や生活コスト——胃袋と財布——に直結した現実的な不安を抱える、よりマジョリティな層」へと、軌道修正を迫られている。
これは「自分が売りたい理想の政策」が、「大衆が今本当に飢えているもの」へと引き戻されるプロセス、と言い換えることができる。
「希望」より「不安」が、政治を動かしている
なぜ、4人ともこの方向にシフトするのか。その背景には、もっと大きな構造がある。
実は現在の世界政治において最も重要なのは、「希望」よりも「不安」だ。トランプの有権者にとっての不安は「生活水準の低下」、プーチンにとっては「社会の不安定化」、習近平にとっては「経済停滞」、高市早苗にとっては「日本の相対的衰退」。
そして1年後も、それぞれの細部は変わっても、「将来を良くしてほしい」よりも「これ以上悪くしないでほしい」という有権者心理が中心であり続ける可能性が高い。
マーケティング的に言えば、現在の世界の主要政治家は、「夢を売る人」よりも「不安を管理する人」として支持を集めている側面が強い、ということになる。
「説得」ではなく「発見」
最後に、もう一つ重要な視点がある。4人とも、有権者を「説得する」のではなく、「最初から自分に合う感情構造を持つ人を見つける」という設計をしている。
トランプは怒りを抱えた反エリート層を、プーチンは沈黙する安定志向層を、習近平は国家目標と一体化した層を、高市は保守と決断を求める無党派層を、それぞれ「発見」している。
これは、マーケティングで言えば、「広く売る」のではなく「強く刺さる市場に集中する」という戦略そのものだ。
そして、これこそが、私たち個人の発信者にとっても、最も応用可能な視点なのではないだろうか。「誰にでも良いことを言おう」とするのではなく、「今、この瞬間に、特定の不安を抱えている、たった一人」に向けて語る。その一人に本当に刺さったとき、初めて、それは多くの人の心にも届き始める。
このシリーズでは、世界の主要リーダーのマーケティング戦略を「ペルソナ設計」という視点から読み解いています。次回もお楽しみに。



